県政オンブズマン静岡 〜静岡県庁の光と闇〜

訪問販売業者の別働隊「NPO法人静岡県食育協会」への過剰便宜の闇


平成30年9月20日(木)



1 <プロローグ>

はじまりは講演会参加者と思われる方からの一通のメールであった。
その概要は
(1) 夫が副知事だという静岡県健康福祉部理事土屋厚子がマルチ商法のミキプルーンが作った静岡県食育協会の理事になっている。
(2) 静岡県食育協会は県の組織でないのに定期的講演に毎回出席し、講演しているのはおかしくないか。
(3) 静岡県食育協会の事業の後援が静岡県・静岡市・静岡県立大学となっているがこの団体に税金が使われているのか。
という3点の疑義である。

このことについて、予備調査したところ違法性はないと思われるものの、地方公共団体の社会的責任において疑問のある関与、具体的には県の付与した信用によって被害者が生じかねない自体が進行していると判断し本調査を行ったものです。
なお、(1)について、静岡県食育協会は正式には特定非営利活動法人「NPO法人静岡県食育協会」であり、協会設立時の理事に土屋厚子が就任していないことは確認できますが、当該職員がその後理事に就任したか否かは代表権のない理事であれば登記事項でなく、非営利団体の理事就任は報酬を得なければ地方公務員法第38条の許可事項でもないため現時点で公開された資料がなく確認できませんでした。

また、(3)の税金投入については予想されたことではありますが、(職員の人件費や出張旅費を除き)ありませんでした。

よって、以下、(1)に係る「NPO法人静岡県食育協会」の実態、(2)の疑問や(3)の県の後援実態など、調査で判明した問題点について論証・評価したいと思います。


2 <ミキプルーンで有名な訪問販売業者「三基商事(株)」の別働隊「NPO法人静岡県食育協会」>

平成29年8月8日、一つの特定非営利活動法人(NPO法人)が静岡市内に誕生した。
名称は「NPO法人静岡県食育協会」
一見すると地方公共団体の名称である「静岡県」と関係があるように誰もが錯覚しそうな名称であるが、あくまで県組織とは無関係に設立された一民間法人に過ぎない
そもそも特定非営利活動法人とは特定非営利活動促進法第1条によって「ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的」とした主体であって、行政とは独立した活動主体として自発的活動が期待された法人なのである。

その「NPO法人静岡県食育協会」であるが、登記簿上の住所(主たる事務所)を確認し、所管庁である静岡市のサイトで電話番号を調べたところ、いずれも三基商事株式会社静岡支店と一致、さらに内閣府のサイトや県が開示した公文書類(三基商事からのFAXなど含む)などから、次に事実が判明した。
(1) 理事長、常務理事、理事(3名)、監事のうち、理事長(県立大学特任教授)と理事の一人(京都大学名誉教授)を除く4名が三基商事関係者(執行役員や代理店)であること、
(2) 「事務局を総括して業務を処理」(定款)する実働部隊の責任者である常務理事を三基商事株式会社の執行役員が担っていること、
(3) 事務局は三基商事(株)静岡支店に所在し、職員もFAXなどの事務機器も同支店と一体であること、
である。

ちなみに、この三基商事株式会社というであるがその社名よりも商品であるミキプルーンの方が有名な訪問販売業者である。

また、この「NPO法人静岡県食育協会」唯一代表権があるのが理事長の山田靜雄氏であるが、実際に協会の実権を握っているかというと大いに疑問のあることがこの協会の発足記念講演会からもわかる。
自身の会が主催する講演会であるにもかかわらず、そのチラシには「山田静雄 先生」と表記されているのである。
NPO法人静岡県食育協会発足記念講演会の聴講者の動員見込み500人のうち300人もが、三基商事東京支店所在地において設立されたNPO法人日本食育協会の独自資格である「食育指導士」「上級食育指導士」など協会関係者であることを考えれば、三基商事株式会社の別働隊としての「NPO法人静岡県食育協会」においては、名目上は代表であるものの、現実には事業に協力してくれる「先生」でしかないのであろう。


(1)についての補足(NPO法人日本食育協会設立時の役員と定款)

理事長 山田靜雄 : 静岡県立大学特任教授、静岡県立大学大学院薬食研究推進センター長
常務理事 渥美豊太郎 : 三基商事株式会社執行役員(営業プロジェクト推進室長)、NPO法人日本食育協会専務理事、日本訪問販売協会理事
理事MT : 京都大学名誉教授、株式会社運動医科学研究所所長
理事M : 三基商事代理店、NPO法人日本食育協会認定上級食育指導士
理事I : 三基商事代理店、NPO法人日本食育協会認定上級食育指導士
監事T : 三基商事代理店、NPO法人日本食育協会認定上級食育指導士

定款第15条第1項の規定により、理事長は「この法人を代表し、その業務を総理する」「理事長以外の理事は、法人の業務についてこの法人を代表しない」
定款第15条第2項の規定により、常務理事は「理事長を補佐し、事務局を総括して業務を処理し、理事長に事故あるとき又は理事長が欠けたときは、その職務を代行する。
定款第55条により「この法人の事務を処理するため、事務局を置く」「事務局には、事務局長その他の職員を置くことができる」


3 <NPO法人日本食育協会と昨年来続々と設立される府県食育協会>

三基商事株式会社と静岡県食育協会の関係は静岡県に特有なものなのか?、当然わき起こるこの疑問をもって調査範囲を広げたところ、全国的に、かつ組織的に企てられ、現在進行中とみられる状況が明らかになった。
そして、その原点は平成16年3月の食育基本法法案が国会に提出された後の平成16年6月14日に設立された特定非営利活動法人「NPO法人日本食育協会」である。
平成19年に住所を移転しているが、設立当初は東京都渋谷区渋谷三丁目の三基商事株式会社東京支店内に住所があったことが、登記簿によって確認できている。
「NPO法人日本食育協会」の専務理事は、今回の「NPO法人静岡県食育協会」設立に当たってその事務局を総括する常務理事を務める渥美豊太郎と同一人物である。
「NPO法人日本食育協会」は平成17年の食育基本法の成立と同法人認定の「食育指導士」という資格ビジネスの拡大などにより活動の場を広げ、今日の法人財務基盤を築いて現在に至る。(平成26年の資産総額が3226万2256円であったものがわずか3年後の平成29年には5198万3082円にまで増加したが平成30年3月31日現在の資産総額は5102万9756円に。)

その後、平成28年9月30日には、地方版としては初の「NPO法人福島県食育協会」が設立されたが、この際は常務理事という役職はなく、副理事に三基商事代理店のTが就任し、登記簿の法人事業目的中にはNPO法人日本食育協会による一民間資格である「食育指導士」の育成をうたっているという、連携が既に見られている。

そして、それから約1年後の平成29年8月8日に本県に設立されたのが「NPO法人静岡県食育協会」である。
その後、本県での設立と行政支援に意義を見いだしたかのように、
平成29年11月16日に「NPO法人新潟県食育協会」
平成29年12月20日に「NPO法人埼玉県食育協会」
平成30年1月15日に「NPO法人長野県食育協会」
平成30年1月23日に「特定非営利活動法人神奈川県食育協会」
平成30年1月24日に「NPO法人茨城県食育協会」
平成30年3月2日に「NPO法人愛知県食育協会」
平成30年5月9日に「NPO法人沖縄県食育協会」
平成30年6月11日に「NPO法人山口県食育協会」
平成30年7月27日に「NPO法人京都府食育協会」
平成30年8月23日に「NPO法人群馬県食育協会」
と設立が相次いでいるのだ。

このうち、三基商事の支店がある静岡、横浜、名古屋においては三基商事株式会社の各支店所在地が各県食育協会の住所と一致しており、茨城県のように支店のない各食育協会にあっては、法人住所は個人宅などになっているものの、そこで行われる講演会などの連絡先は、「茨城県食育協会事務局(三基商事(株))内」との表記で東京の電話番号が記されている上、これら各府県食育協会の資産総額0円からの出発で財政基盤のないことを踏まえれば、事実上、三基商事の支援を受けて事務局運営を行っているとみられるのである。
また、最初の福島県を除き、確認できる限り全ての常務理事は三基商事執行役員の渥美豊太郎である。

これら一連の動きから見ても、各府県食育協会が一営利企業である三基商事の意図から離れ、独立して「ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的」とした主体」といいうるか、との疑問が払拭できないのである。

TOPIC : NPO法人日本食育協会と各府県食育協会の関係

法的にはそれぞれ独立した存在であるが、いずれも三基商事株式会社が支援して作った法人という経緯と、三基商事が実質的に事務局機能を負っている事実から、実質的には本部−支部的関係にある。このことは、平成30年4月29日開催の「食育シンポジウムIn郡山」のチラシでは「お問い合わせ NPO法人日本食育協会支部 福島県食育協会 郡山市虎丸町」と表記されていることからも、そういう認識が潜在的に存在すると言うことが分かる。
また、NPO法人日本食育協会による一民間資格である「食育指導士」の育成が各府県食育協会の事業として登記されている事実も、その認識を補強している。


4 <三基商事はマルチか?〜名を変えた業態、ネットワークビジネス〜>

さて、本題である県と三基商事の関係に触れる前に、三基商事株式会社とはどのような会社なのか、予習しておこう。
三基商事株式会社は大阪に本社を置く非上場の同族経営企業で、健康食品や化粧品などをを扱い、販売員が直接消費者に販売する訪問販売の形態を主とする会社である。
代表的な商品はCMでもおなじみの「ミキプルーン」。
最初に「し(4)ょくい(1)く(9)」の語呂に合わせて4月19日を食育の日と定めたのもこの三基商事で、これは日本記念日協会において認定済みの事実である。
そもそも、同社がNPO法人日本食育協会の設立に関与したのも、イメージや口コミでの信頼獲得による販売が生命線である健康食品のため、国が積極的な「食育」に目をつけ、これを本業に生かそうとしたものと考えられる。
一方で、同社の問題(懸念)は、訪問販売業特有のトラブルと常に背中合わせだということだ。
ネット検索でも三基商事株式会社で検索するとそのタイトルには「マルチ商法?」や「マルチ?」という文字が上位に出てくるが、現実には「マルチ商法」という呼称は法令にも存在しないし、明確な定義も固定した社会的認識も存在しないとされている。
ただ唯一、このマルチという呼称が訴訟となった事例がある。それは日本アムウェイの商法を「マルチ商法ないしマルチまがい商法」とした論評について「訪問販売法で規制されている連鎖販売取引の要件の主要部分を満たし、社会問題性を抱えており、マルチ商法に類似していることは明らかだ」と判示した事件である。
この判示では「特定商取引に関する法律」の第3章に規定する「連鎖販売取引」を「マルチ商法」と見立てた構成を取っているが、そもそもこの「連鎖販売取引」自体は規制に従い「不実告知」「重要事項不告知」などの不適切な勧誘といった違反がなければ、いくら被害を訴える者が出ても、我が国では適法なものであって、一般的なマルチのイメージとは異なったものとなっているのである。
実際、日本アムウェイは現在も適法に事業を続けており、連鎖販売業界紙の月間ネットワークビジネス2018年10月号においては、ネットワークビジネス売上高ランキングで1千億円を超える圧倒的1位をキープし続けているのである。
(注:ネットワークビジネスは、人的ネットワーク(人脈)の拡大によって商品購買者を増やしていくビジネス形態で、一般に会社の下にピラミッド型の人的販売組織を持つ。現在ではかつてマルチ商法といわれるものも包括した概念として業界紙においても使われている呼称である。)

そして、その日本アムウェイに次ぐネットワークビジネス売上高ランキングで5千5百万円をもって第2位に位置するのが三基商事株式会社である。
製品別の「栄養補助食品」部門だけのランキングでなら、日本アムウェイを抜いて堂々の業界1位の企業である。

ここで三基商事について書かれた一冊の本を紹介しよう。
「マルチのカリスマ ミキプルーンの真実」(あっぷる出版社)というものでノンフィクションライターの樋口昴央氏による2015年出版の書籍である。(注:ここでは触れないが、この本には商品の情報も書かれているので商品に興味があれば一読を。)
この中では三基商事が、法が規制する連鎖販売取引該当性の5条件のうち「特定負担」と「特定利益」の2つの条件の形式的解消に奔走してきた事実が書かれている。

特定負担とはメンバーになる条件として販売実績の伴わない買い付け義務などの金銭負担を課しているか否かということであるが、三基商事は60セットを一括購入のさせているとしても、それをメンバーが実際に消費なり完売させている事実を監督官庁の通産省に認めさせ連鎖販売業としての当時の社名公表を免れたという。
しかし、その後、他のネットワークビジネス業者でも行っているメンバー特典のある「キャンペーン制度」(たとえば720万円分の商品を仕入れた人にはアメリカの農園ツアーが付いてくる、など)等によってメンバーが膨大な在庫を抱えると、これを見えないようにする「預かり制度」(代金を払って仕入れた商品を会社や代理店などに預けておく形で、在庫が家庭内にないので家族は気づかず現金が消えていく仕組み)を築いたということである。会社にとっても売り上げは増えるが生産は抑制できるメリットが生まれることとなったのである。

また、仕入れ段階で自動的に利益が生まれる特定利益についても、
それまで代理店が会社から4000円で仕入れていたものをその下の営業所は5000円で仕入れ、その下の会員は7500円で仕入れるというそれまでの「差別価格制度」を改め、
代理店も販売店も会員もすべて同じ7500円の仕入れ値にするという「一律価格制度」に改め、規制要件を形式的には解消したという。
ただ、もちろんこれでは、ピラミッド型の上位者にメリットがなくなり、販売人脈を拡大させるモチべーションは維持できない。
そこで援助金という名目でのバックマージンの構造ができたという。(ゆえに、形式的解消)
結果、2014年時点で、仕入れ価格からバックマージンを引いた実勢価格は、代理店で3,650円、営業者で5,050〜5,350円、会員で6,850円だそうである。

さらに三基商事の商品価格が他社の商品と比較して高額な理由としては、商品がいくつかのファミリー企業を介して流通し最後に三基商事に戻ってから、その後で代理店に流通している仕組みが指摘されている。(流通段階で各社に利益が分散される仕組み)
実際この本に書かれていたファミリー企業の三興商事株式会社(大阪市北区)、三基食品株式会社(兵庫県西宮市)、クローバーリーフ株式会社(兵庫県芦屋市)を調べたところ、代表取締役、監査役ともに三基商事株式会社と全く同一人物であった。

しかしこの本の中で私が一番注目したのは、「三基商事の経営戦略」という段落である。
それは、今回の問題を予言するかのようなものだったからだ。
そこには、セミナー(学習会)充実の目的を「未来への投資」として、「メンバーが、健康や食品、あるいは食育といったものに対する高い意識を持つことが重要であり、さらにはそれが仕事への誇りに繋がる。知識をもつことによって、説得力が増し、結果として顧客を増やすことになるという考え方だ。」と、また元幹部の発言として「いまでも、三基商事ほど高いレベルで、食や食育に時間と資本を投下したマルチ企業はないんじゃないでしょうか」と、書かれているのだ。

実質三基商事代理店などのメンバーで構成するNPO法人の開催する講演会に、そのメンバーが大勢集まる講演会に、「県」という公的機関の後援が付き、しかも静岡県においては県の要職にある者が毎回公務として参加して支援してくれる。
さらに法人の名称も(県の組織のように見られる)静岡県と付いた静岡県食育協会の名の下に活動することの誇りと説得力の獲得、このことが何を意味するのかを、この本は十分示唆してくれているのである。

TOPIC : ネットワークビジネスと政界

ネットワークビジネス業界と政界の癒着は規制の強化とそれを緩和しようとする「力学」の中では必然のものといえる。
それは与野党を問わない。
2008年には、国会でマルチ商法を擁護するような発言をした民主党の衆議院議員が離党に至り、当時の消費者担当大臣の野田聖子(自民党)はアムウェイからの政治献金が発覚し献金の返却に至るなど、社会問題となった。さらには民主党内のマルチ擁護の議員連盟が、訪問販売法改正案審議に絡んでネットワークビジネス業界から献金を受けていたことが新聞などで報じられた。


5 <歪められた行政〜違法を黙認し静岡県後援名義を付与〜>

まずはじめにNPO法人静岡県食育協会が静岡県に提出した後援名義使用承認申請書の「かがみ」を見ていただきたい。
これを見ただけでも、小さな疑問にいくつか気がつくはずだ。



それをざっと列挙すると、
@静岡県知事に静岡市の後援名義を求めている。
A法人の代表者の印鑑が私印では。
B薬学を通じての健康増進ってそもそも食育なの、食育って何。
C入場対象者500人のうち入場料の見込みが200人ってことは大半の300人は協会関係者で、3万円程度の宣伝費で本当に一般の人も集まるの?。
D静岡新聞SBSはなぜ後援してるの?
E後援にある三基商事(株)ってなに?住所や連絡先もこの私企業の中にあるってこのNPO法人って自立した実態があるの?。
と、こんなところであろうか。

@は明らかに単純なミスであろう。
Aは私印でも登記できないことはないが、事実確認は必要だろう、。
Bは、食育基本法前文において「様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育」と定義されているものの、「食」に関する知識など、あまりに漠然とした定義だ。このため、一概に食育と無関係とは言えない。重要なのは食育の該当するか否かではなく、県が後援するに値する事業(講演)内容なのかということである。
Dは三基商事はミキプルーンのCMが有名であるが、有名なスポンサー番組もいくつかもっておりマスコミにとっては無視できない存在なので、マスコミの後援は何ら不思議でも問題でもない。
Eについては、先述のとおり、自立性に乏しいと思われる。
Cについては、まず次の「後援審査票」を見てほしい。
これは、静岡県後援取扱要領第5条第2項に基づき、適否を審査した結果を取りまとめたもので、これを妥当として後援名義使用承認の責任者である知事戦略局秘書課長(当時:山田勝彦)が県後援名義の使用を承認したのである。




見込み段階で既に入場対象者の6割もが特定の団体の会員である事実(実際には一般の割合は見込みより少なくなることは容易に予想できる)、さらに差別的参加料設定の事実は、「事業要件」の1番目の「県民生活の向上に寄与」という点で実現具体性に欠ける上、2番目の要件「特定の流派や系列に偏せず」の適否については、大いに疑問が生じるものである。
会員以外の有料聴講者をどのように集め、その実現可能性の有無を追加資料などで求めるべきであるが県はそれを怠っており、安易な後援名義使用の承認と言われても仕方のない審査であることは明らかである。

しかし、最も重大な問題、明らかな違法の事実は、後援名義使用承認申請書の日付にある。

後援申請書作成日付が平成29年7月14日、県が申請を受付たのが7月23日、審査結果をまとめたのが7月24日であるという事実だ。
「特定非営利活動促進法」第13条第1項では「特定非営利活動法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立する。」と規定されており、最初の方で既述したが、登記簿を確認したところ「NPO法人静岡県食育協会」法人成立の年月日は平成29年8月8日なのである。

つまり、まだ存在していないNPO法人を表記した申請に対して、県はその存在していない法人について「存在及び基礎が明確」だなどと誤った判断を行ったのである。
(そもそも、法人格(=法が認めた権利義務の帰属主体たる地位)がないのに申請とか、あり得ないことである。)

また、「特定非営利活動促進法」第4条では「特定非営利活動法人以外の者は、その名称中に「特定非営利活動法人」又はこれに紛らわしい文字を用いてはならない。」こと及び、
同第81条「第4条の規定に違反した者は、十万円以下の過料に処する。」旨が規定されており、「NPO法人」として申請することは、明らかな違法行為なのである。

さらに、このことに気づくべき端緒となる問題を県は無視している事実がある。
代表の問題である。
「NPO法人静岡県食育協会」代表権ある者は登記簿の「役員に関する事項」に記載されるが、設立後の法人登記簿上は、理事(定款上は理事長)の山田靜雄のみであった。
この事実は、県に提出された後援名義使用承認申請書に添付の定款第15条においても、「理事長以外の理事は、法人の業務についてこの法人を代表しない」と明記され、その附則には理事長が山田靜雄であることが明記されている
つまり、日本語を正しく理解できるならば、この後援名義使用承認申請書が代表権のない者によって行われたものであることは容易に気づくことができ、そこから法人の正式な登記上の代表権を有する者を確認したならば、必然的にこの法人が未だ成立していない団体であること、違法にNPO法人を表記してなされた申請であること、が覚知できたのということである。

よって、担当課職員から秘書課長までもが日本語が理解できない者でない限り、誰からの圧力なのか、誰に忖度したのか、それは分からないが、違法行為が黙認され静岡県の後援名義が付与されたということである。これは極めて憂慮される失態であると言わざるを得ない。

また、そもそもがNPO法人は全て法律上は「公益の増進に寄与すること」を目的とした法人なのであるから、その名称や定款だけで信用すべきではなく、過去の実績を確認すべきものである。
かつて、「大雪りばぁねっと。」というNPO法人が、東日本大震災で過去の事業実績を山田町が確認せずに信用を与えたばかりに復興事業を拡大させ、ついには公金の業務上横領の罪に至った教訓が全く生かされていないのである。

次に第2回のNPO法人静岡県食育協会食育講演会の後援名義使用承認申請書を示す。
(後援審査票は参加人数やの参加費の金額の記載が変わっただけでその他の審査項目は初回と全く同じなので省略)



ここでは、以下の事実が確認された。
・代表者は正しく記載されるようになったものの、印は代表者印ではなく法人名印で役所に提出する書類としては不備なもの。
・相変わらず知事に静岡市の後援名義を求めている。
・収支見込みを見ると、350名が日本食育協会会員で一般参加の見込みは100名、すなわち約8割が関係者という構成で、前回以上に「特定の流派や系列に偏せず」と言えるのか大いに疑問。
・発足記念講演会で挨拶した静岡県健康福祉部理事土屋厚子を指名して再度の挨拶出席を求め、書面上の出席許可は挨拶とはなっているが、現実はパワポを使って「しずおかまるごと健康経営プロジェクトについて」と題する講話を行い、協会事業に尽力している。
これら事実から、県と協会の親密度がより深まった感じだ。


そして、より重大な問題なのは、次に示す今年5月の後援名義使用承認申請である。
何と、事業詳細不明な、協会の平成30年度の年間事業4件を、一括して後援することを求めているのである。
かろうじて事業概要(講演の演題と講師名)が添付されているのは「第3回食育講演会」と「第1回浜松食育講演会」の2事業のみというありさまだ。
「第4回食育講演会」及び「第5回食育講演会」に至ってはどのような内容の講演が行われるのか全く明らかにしないまま後援名義の使用を求め、県はこれを承認しているのである。
これは極めて異例なことである。
というのも、静岡県後援取扱要領には過去2年連続して県が後援し、特段の問題がなく、翌年度も主催者、事業内容等の変更がない事業は「例年後援事業」という特別な取扱いが認められてるのだが、これを上回る特例、まだ2年目の法人について、しかも肝心の事業内容が未定の事業にまで一括で後援名義の使用を認める、などいうのは要領も想定しない破格の取扱いだからだ。

決裁にかかわった職員らが名実ともにその職責を自覚しているのならこれに対しNOと言えるはずであるが、権力の走狗・組織のマリオネットと化しているため、たとえ間違っていると思っても反抗は許されていないのであろう。ナチスのアイヒマン(http://navy.ap.teacup.com/applet/hikaritoyami/201701/archiveの後段参照)と同じである。

さらに、実際に行われたこの第3回食育講演の内容を見ていただきたい。
生命エネルギーを高める力をもつ若返りフルーツ「アムラ」の秘密を解明」という演題だが、これに対し食育との関係だけでなく、一般に知られていない「アムラ」って何だろう、「若返り」なんてエビデンスがある見解なのか、と疑問を持つのが普通の反応だろう。
そこで「アムラ 若返り」でネット検索してみたところ、何とその上位にその「アムラ」を含有した三基商事の美容補助食品「ミキアスプリプラス」を勧めるブログがヒットしたのである。
この講演の場で販売行為に及べば効能をうたっての販売として薬事法等の違反に問われかねないが、この会社はそういうリスクは犯さない。
講演後に「先日県が後援した講演会で名前が出た「アムラ」のエキスを含んだ商品がある」という形で売り込むことができれば十分である。
講演を聴いた者への売り込み時に、違法となるおそれのある「若返り」等の効能を表す禁句をあえて言わずに済むからである。
まさに、販促のための講演会であり、県がそのための講演内容にお墨付けを与えたということになるということである。

しかも、これと全く同じ演題の講演が、平成29年10月15日にNPO法人福島県食育協会主催(県後援なし)の「食育シンポジウムIn郡山」で、全く同じ講師で行われており、そのとき挨拶をしたのはNPO法人静岡県食育協会の常務理事でもある渥美豊太郎氏であり、その際の表記は「NPO法人日本食育協会専務理事 三基商事(株)執行役員 渥美豊太郎 氏」と、社名を堂々と明らかにしての開催だったのである。(チラシのアムラの写真も全く同じ。また、その写真は太陽化学(株)のサイトのものと全く同じで、許可の有無は不明だが、おそらくそこからもってきたと思われる。)この点からも、会社がらみの演題選択とみて間違いないだろう。

事業内容が不明の事業に対しても一括で県の後援名義の使用を認めるということになれば、未定の講演の内容がキプルーンの健康効果という講演であっても食育というテーマだからいいということになってしまうが、これでは県民に対して明示される県の後援という信頼の付与の意義が問われかねない。

この後援名義使用を認めた秘書課長(鈴木史朗)はこの後援で講演内容に信用を与えた結果の商品購入被害に責任を負えるのだろうか。いざことが大きくなっても、森友問題の佐川氏のように逃げるのが関の山ではないのか。
自身の職責の重さについてよく考えてもらいたいものである。
行政をここまで歪めて何を得ようというのだろうか。













最後に、NPO法人静岡県食育協会の発足記念講演会を始めとして、第2回、第3回と毎回出席し、協会を積極支援している静岡県健康福祉部理事の土屋厚子についてである。

単体では一部局の理事にすぎず他部局職員(秘書課)にとっては職務上の上司にも当たらない一介の県職員なのであるが、夫が副知事、それも県庁内で幅をきかせている東北大閥の副知事(注:静岡県には現在副知事は3名いる。一人はT総研がらみのSの出馬に対抗し現知事が後継指名すると噂される国交省の元キャリアの難波、そして庁内調整役とされる東北大出身で県職員上がりの吉林、もう一人が同じく東北大出身で県職員上がり、何かとおねだりの多い伊豆地方の首長と知事との緩衝役を担う土屋優行、土屋厚子の夫である。)であることから、日本体育協会の塚原夫妻と同様、その影響力は決して無視できないのである。
ゆえに、本人の意思にかかわらず、健康福祉部以外でも忖度が生じやすい。

ましてや健康福祉部内であれば、本人が一NPO法人の開催する講演会に毎回出席したいと言えば、誰もNOとは言えないのである。
単純な昨年12月の県内旅費の入力を3か月も放置(12月24日出席の第2回食育講演会の旅費処理を3月に行っていた)しても平然としていられるのも特権意識や忖度の存在の表れであろう。一般職員なら旅費担当から再三の催促があるものだ。
また、平成30年7月22日現在の第4回食育講演会(平成30年9月24日開催予定)のチラシで、またも静岡県健康福祉部理事として講演すると明記されているのもかかわらず、8月19日請求の当該講演会への出席依頼文書の公文書開示請求に対する9月11日の公文書部分開示決定文書では、当該出席依頼文書については「出席依頼文書未受理のため、文書不存在」とのことであった。
手続を無視して自分の判断だけで出席を約束したのであろう。
常軌を逸した協会との癒着関係だ。
最後に、次の報告書をご覧いただきたい。土屋厚子による報告書である。
これが税金を使った職務成果としてふさわしい報告と言えるだろうか。
自分がしたことと聞いたことを書いただけで、何の考察もない。
思いを語る小学生の感想文の方がまだ役に立つだろう。
大体が、講演した講師の名前が三基商事の代理店の一人になっているというお粗末さと、それに沈黙の局長以下職員。
これでは県民のための行政組織の体をなしていないと言わざるを得ない。



TOPIC : 行政が行う食育の罠

民間ビジネスとして行われる「食育」とは別に行政が行う「食育」には注意が必要である。
特に食育政策としての「共食」の推進には識者からも懸念のこえが根強い。

相模原女子大学名誉教授河上睦子氏の「フォイエルバッハ後期思想の可能性−身体と食の思想」などによれば、
「共食についての哲学・思想的意味を明らかにしたのは19世紀の宗教批判の哲学者フォイエルバッハである。彼によれば、共食は二面性をもつ。集団の結束、協同性・連帯感の醸成、共同体意識の強化、相互支援、食文化の継承・伝承などの役割を果たす一方で、異なる集団の食文化に属する者たちへの排除・差別というイデオロギー機能も果たす。」とされ、第二次大戦記のドイツや日本でもこの両面的機能が発揮されたと指摘している。

また、鹿児島国際大学助教授の佐々木陽子氏は「食育基本法の孕む問題−食卓を囲む家族を巡るポリティクス−」で、食育基本法が目的とする「食の危機」を「家族団欒」の不在に短絡的に結びつけることの問題を指摘している。その上で、「国の責任において担うべき公的事項と、個々人の選択・判断にまかせるべき私的事項の境界に意識的でないと、いつしか「公」と「私」の領域・心の問題に越境する危険をもつことになる。」と警鐘を鳴らしている。

この危機感は、藤原辰史氏による「家庭生活領域を政策の対象とする食育基本法の気味悪さ」という論文の中での「「政治的なこと」が「個人的なこと」に介入する場合には、過去現在の国民動員など、権力の意図が絡むことが多いことに留意するとともに、土足で踏み込んではならない「個人的なこと」の領域を人の「権利」という視点から防御する必要があるだろう」との指摘にも表れている。

要は、このような私的自治領域への公の浸食に対しては堅固な意識の壁を認識し、冷めた目で一定の距離を意識することが肝要であろう。



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